main > シナリオ部 > 茜雲の向こう側


沙希→三嶋沙希
裕美→佐野裕美(結婚して姓がかわりますが直接の話には関係ないのでここでは旧姓)
塚田→塚田健(たける)
森本→森本明(あきら)


今日は大学時代の友人の結婚式だった。
私は、卒業後地元を離れ就職し、そのまま結婚したため長い間、地元には戻っていなかった。
披露宴が終わって、2次会に行くかどうしようか迷っていたら、ぽんぽん、と背中をたたかれた。

沙希「ん?」

振り向くとそこには、懐かしいと言うよりある意味うんざりした気分になる顔がそこには合った。

沙希「塚田・・・?」
塚田「よ〜。久しぶりだな。」
沙希「全くね。ずっと会わなくても良かったんだけど?」
塚田「相変わらずだな、お前。そこまで言うか?」
沙希「言うよ?」
塚田「そう言うやつだよな、お前・・・。そうかお前も式に出てたんだな」
沙希「うん。裕美綺麗だった〜・・・。ってあんたもでてたわけ?全く気づかなかったけど。」
塚田「・・・あのな・・・その性格直した方がいいぞ・・・。俺も出てたんだよ、新郎側だったけどな。気づいてたのは俺だけかよ〜。」
沙希「仕方ないでしょ。新郎側の友人なんていちいち気にも留めてないわよ。今更、結婚式で相手探そうって訳でもないしね。」

と左手をかざしてみせる。

塚田「あ〜、お前もう結婚したわけ?俺より先にお前が結婚してるとは思わなかった・・・。」
沙希「殴られたい?」
塚田「もう殴ってるだろ・・・・マジでその手の早さどうにかしろよ・・・。旦那にまでそれやってないだろうな。」
沙希「当たり前でしょ?」
塚田「ここでもなんだし、どっかで呑むか?」
沙希「うわ・・・あんたが相手の酒なんて不味そう・・・・。」
塚田「だからそれやめろよ・・・・。俺も昔ほどガキじゃないし勘弁してくれよ・・・・。」
沙希「嘘よわかってる。ただしおいしいお酒出してくれるところにしてよね。私結構強いよ?」
塚田「だろうな・・・じゃこっちだ。」


これから向かう方を指さして歩き始めた。
私も遅れず歩き始めた。



塚田「んじゃ、今日のところは佐野を祝って乾杯しとく?」
沙希「そうね、久しぶりの再会を祝ってって感覚はないし」
塚田「少しは態度を軟化させろよ〜。酒が不味くなるだろ。」
沙希「うん、確かにお酒に罪はない。おいしいものはおいしくあじあわなきゃ損だよねぇ〜」
塚田「じゃグラス出せよ、ほい」
沙希「ん」
塚田「は〜〜〜旨いわ〜。」
沙希「うん、おいしいわ。それにしても歳はとりたくないわね〜。おやじなリアクション〜」
塚田「あのな、お前同期だろ?人のこと言えないだろ?」
沙希「そりゃそうだけどね〜。」
塚田「そういえば、お前いつ結婚したの?良くお前相手にする男がいたな。」
沙希「大学卒業した翌年。おあいにく様だけど、物好きな男がいたのよ。」
塚田「まあ蓼(たで)食う虫も好き好きって言うもんな。」
沙希「あんたに言われたくないわよ・・・でも裕美に聞いてなかったの?私裕美は式に呼んだわよ?」
塚田「あ〜、確かに俺地元残ったけど、その後の接点は佐野の方とはほとんどないんだよ。佐野の旦那が俺が会社で世話になってる先輩で・・・むしろ紹介された後にびっくりしたくらいだ」
沙希「なるほどねぇ・・・。」
塚田「でも結婚できたところを見ると、あのときからははい上がってきたって訳だ」
沙希「まあね・・・。何かそれも懐かしい話になったわよ、うん。」
塚田「なった、ね・・・。あのときくらいしおらしいお前を見ることはもう無いんだなぁ。」
沙希「あんたも、失礼極まりないわね。」
塚田「お互い様だろ。むしろ思い出したくない?」
沙希「あんたの前では、ね・・・」

そう言いながら、昔の自分を思い出さずにはいられなかった。
今よりもっと弱かった自分のことを・・・。



沙希「もしもし」
裕美「沙希〜元気〜?」
沙希「元気だけど、またどうしたのよこんな時間に」
裕美「聞いて〜」
沙希「聞いてるけど?」
裕美「あのね〜塚田君に告られた〜」
沙希「あ〜・・・・・。とうとう言ったのか〜」
裕美「なに沙希知ってたの?」
沙希「うん・・・塚田に聞いてたからね・・・。でも裕美この間辻君に好きだって言われたって言ってたから黙ってたんだよね。こんなの、他の人から言うものでも無いだろうし。少なくとも、態度には見え見えだったし。」
裕美「沙希塚田君と仲いいもんね。」
沙希「いや、あれは仲がいいって言うのとはかなり違うと思うけど。腐れ縁って言うか、結局どこ行っても会うって言うか。別に顔を合わせたくて合わせてるわけでもないんだけど。」
裕美「でもよく話してない?」
沙希「必要に迫られてるか、憎まれ口か、どっちかよ。それはともかく、どうすんの?」
裕美「そうなんだよね・・・・。かっこいいなとか思うのは辻君の方なんだけど、塚田君と一緒にいると楽しそうだなとかそういうのもあるかな・・・」
沙希「まあ、私が決めることじゃないからなんだけど、その理由でOKされるのもNOって言われるのも言われた方はすっきりしないんじゃない?」
裕美「どっちとも気まずくなりたくない〜」
沙希「あ〜、まあ裕美の性格ならそうだよね。」
裕美「でね、塚田君に遊ぼうって誘われてるんだよ。沙希も来てよ〜」
沙希「何か雲行きの怪しい話になってるんですけど?思いっきり私お邪魔虫じゃない。」
裕美「でも二人っきりってまた別の誤解を招きそうじゃない」
沙希「私は馬には蹴られたくないんだけど?」
裕美「だから沙希はうちに泊まりに来てよ〜。」
沙希「私には拒否権はないって?」
裕美「その日、沙希が泊まりに来るって塚田君に言っちゃった・・・・」
沙希「それ、マジで拒否権ないじゃない・・・。」

思わず頭、抱えてしまった。

当日。
こともあろうに、私が泊まりに来るとわかっていて、塚田もそれでいいと言い出したせいで、妙な取り合わせで遊ぶことになってしまった。

沙希「塚田ぁ・・・あんたなんで私を巻き込むのよ」
塚田「いざって言うときに気まずくならないだろ?ついでにお前がいるその場では彼女も俺にごめんなさいすることなさそうじゃん。」
沙希「利用すんなっ」
裕美「沙希〜うちで何呑む〜?」
沙希「私は裕美のおすすめと後は自分で選ぶよ〜。・・・ほら、塚田あんたは裕美の荷物持ちでもしてきなさいよ」
塚田「つまみはどうするよ?」
沙希「私のことを気にしてる暇があったらとっとと行けっ。このド天然!」
(私は何をやってるんだろ・・・。)
裕美「沙希決まった〜?」
沙希「あ〜はいはい」

自分のお気に入りの日本酒片手にレジに向かった。
結局、裕美の部屋で、ゲームして、呑んでテレビを見たりしているうちに、なんと裕美が一番に寝てしまった。

沙希「これ、起きると思う・・・・?」
塚田「俺にもわかんねーよ・・・。」
沙希「まあ、まだ残ってるしね・・・・。空けてしまう?」
塚田「・・・・だな」
沙希「は〜、私何しにここにいるのよ〜・・・。人様の恋愛に首つっこんでる余裕なんかないわよ・・・」



塚田「悪いな・・・・っていうか、お前はどーなってんの?」
沙希「はあ?何言ってんの?」
塚田「森本さん。違うの?・・・・もう結構長いこと・・・」
沙希「何それ・・私誰にも言ってない・・・。」
塚田「やっぱりそうなんじゃねーか。」
沙希「うわ・・・てか何であんたが知ってるのよ」
塚田「否定しないな」
沙希「・・・・・・」
塚田「語るに落ちるってね。」
沙希「・・・別にどうもしないわよ。もう2年くらい会ってないし。どうなるものでもないし」
塚田「その割には、他の男に目、向いてないよな。」
沙希「単に好みの男がいないだけよ。興味もないし」
塚田「嘘言うなよ。」
沙希「嘘言ってなんか・・・」
塚田「それなら、どうしていつもなきそーな顔してんだよ。」
沙希「してないわよ。」
塚田「してるね。森本さんがいた場所できるだけ避けて、好きだってことから逃げようとしてるの見え見えなんだよ」
沙希「何であんたにそんなこと言われなきゃいけないのよっ」
塚田「あのな・・・俺が好きなのは確かに佐野さんなんだけど、いい加減俺とお前のつきあいも長いんだよ。簡単にばれる嘘ついてどうすんだよ。佐野さんもきづいてんじゃねぇの?ホントのところは。」
沙希「何よ・・・」
塚田「あー、お前が強がるのは今に始まったことじゃないし、もういないってのを受け入れようとするのもわからなくはないけどさ・・・お前そのままだと前いけねーよ。他の誰か好きになろうったってそりゃ無理だよ。」

顔が上がらない。
その自分に重みがかかるのがわかる。

沙希「・・・何してんのよ・・・・」
塚田「そのまま聞いてろ。どうせ顔見られたくないんだろ」
沙希「裕美、いるわよ」
塚田「言ったろ、佐野さんも多分気づいてるって・・・。お前のこの状況見て誤解しようがないだろ。お前の性格しってるなら余計に。俺、弱ってるお前に手を出すほど最低じゃないよ」

返す言葉がない。

塚田「連絡取ってみろよ。電話帳でもなんでもあるだろ?」
沙希「・・・家の番号知ってる・・・・」
塚田「お前そこまで知ってて、マジで何にもしてなかったのかよ・・・。」
沙希「迷惑かもしれないし・・・」
塚田「電話するくらいで迷惑に思う男ならそれまででいいじゃん。今までの気持ち精算できるならそれはそれで。」
沙希「そうだけど・・・・。」
塚田「お前、普段はあんな勝ち気なくせに、こういうことだけ弱気なのな・・・・。」
沙希「こんなの慣れてないし」
塚田「こんなのはな、誰も慣れてないんだよ、でも場数こなして痛みに強くなっていく訳よ。避けて通ってたら慣れるも慣れないもないだろがよ」

私の肩を押さえて、顔を上げさせる。

塚田「だからな、お前がまだ、言えないでいる気持ちを抱えたままで、前に進めないでいるなら、ちゃんと森本さんと、それから森本さんを好きでいるお前自身とちゃんと向き合ってこい。」
沙希「・・・・・・・・・・」
塚田「その後何かあったときは、俺でも佐野さんでも呼べよ。そのときは、ばかばかしい遊びでも祝いでも何でも付き合ってやるから。」

私はぐしゃぐしゃになった顔のまま、頷いた。



沙希「森本さん!」
森本「お〜、ひっさしぶりだな〜。元気にしてたか?」
沙希「まあ、ほどほどです。」
森本「その、ちょっと憎たらしげな口調もかわんね〜な!」
沙希「そうですか?いつもの自分のままのつもりなんですけど」
森本「だな〜。それで今日はどうした?」
沙希「森本さん、実家出られたんですね。電話したらいないって言われてびっくりしましたよ」
森本「あ〜、わりっ。まだ出たところで、後輩連中、連絡すんでないんだよ。お前連絡回しといてくれないか?」
沙希「それはいいですけど。」
森本「たすかるわ、マジで。・・・・実は、結婚、することになったんだ。で、さすがに実家はな、と思ってさ。」

・・・・結婚。
彼女いたんだ。
そんな気はしてたけど・・・・。

沙希「おめでとうございます。・・・よかったですね」
森本「ありがとうな・・・・って照れるな、こういうのは」

屈託のない笑顔。
私はこの笑顔を見て、この人を好きになったんだ。



沙希「まだ式あげてないんですね〜?・・・・この調子だと、本番、大変なことになりますよ?」

笑った。
泣くもんか。
今だけは。
この人の前でだけは。

涙をこらえるために見上げた空は夕日に染め上げられた雲がちりばめられていた。
夜と昼の狭間の刹那。

沙希「私、この時間の空の色が一番好きだなぁ・・・って話、そう言えばしたことありますよね?」
森本「ああ、覚えてるよ。ちょっとの時間しか見られない空の色だから、この時間が好きだとか何だとか言ってたやつだろ?」
沙希「よく覚えてますね・・・、で、森本さんは朝の空が好きだって言ったんですよね。」
森本「そうそう。お前もよく覚えてんじゃん。あの明るい、だんだん白に近くなっていくのがいーんだよ」

この人が好きになった人は私ではなかったけれど。
でも、覚えていては貰えたんだ。

この空の後、真っ暗闇がまっているけれど・・・・でも朝が来るんだ。
そこでこの人は、先輩として待っていてくれる。
「好き」の気持ちは持っていられないけど、その先はまだまだ続くんだ。

沙希「最近なんですけどね、私も結構、朝の空好きになったんですよ。」

多分、最高の笑顔で手を振った。



沙希「もしもし」
裕美「沙希〜、どうしたの?」
沙希「裕美〜・・・・私さぁ、森本さんのこと好きだったんだけど」
裕美「塚田君に聞いたよ〜。やっぱりって思った。・・・・でもその前に、私が沙希に森本さんのこと好きなんじゃない?って聞いたとき、よくもはぐらかしてくれたわよねぇ〜・・・」
沙希「そこはまぁ・・・・で、森本さん、結婚するんだって」
裕美「えー?!ってショックそうに聞こえないんですけど?」
沙希「う〜ん、ショックは受けてるよ?それなりに。だけどまぁ、こうなるだろうなぁって思ってたのもあるし、これでよかったような気もするのよ」
裕美「顔見えないから何とも言えないんだけど・・・・」
沙希「そこはまぁ、言えなかったけどすごく好きだったけど・・・ついでに尊敬もしてる人で・・・だから、いいかなって」
裕美「わかんないけど・・・・何かあったら言ってよね・・・辛いときもだよ?」
沙希「何で裕美の方が悲しそうなのよ〜。大丈夫とは言えないし、多分しばらく・・・好きだとは思うけど・・・でもちゃんと立ち直るから」
裕美「これ、塚田君には話してもいいんだよね?」
沙希「ああ、あの馬鹿?」
裕美「・・・・・いきなり素だね・・・・・・」
沙希「そりゃ・・・あ〜・・・・とりあえず、今の気持ちになれたのはあいつのおかげだから、いいよ言っても。ただし、塚田のおかげだってところはオフレコでね。」
裕美「わかった〜。そこはきっちり抜いて話しておくね〜。」
沙希「じゃ、それだけだからさ」
裕美「ん、おやすみ〜」
沙希「おやすみ」

その後は塚田と顔を合わせる機会なかったんだ。



塚田「思い出した?」
沙希「うわっ」
塚田「何だか昔の思い出に浸ってるみたいだったからそっとしといたんだけど?」
沙希「やっぱりあんた性格悪いわよ・・・」
塚田「結局これを繰り返す訳か・・・・」

大笑いした。
きっと、今の私は茜色をした、遠い空を越えたところにいるのだ。




END
inserted by FC2 system